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黄金の魔女フィーア
カマーン村、到達
「テオドール・グートハイルです。よろしくお願いします」
名前を言ったら彼は水筒に入れた水を飲み始めた。私達とあまり深く干渉する気はないらしい。
「ねえあなた。人の馬車に乗せてもらってるんだから、もう少し愛想よくしたらどうなの?」
初対面の人にも遠慮なく切り込むミレーヌ。いつも通りとはいえども、怒らせないかが心配だ。
「ああ、すみません。何か話でもした方がいいッスか?」
まあ黙ったままよりはありがたいわ。あの人達のせいでミレーヌはかなり機嫌を損ねちゃったし。一時的でもいいから気晴らしをさせてあげて。
「テオドール君、君は何歳だい?」
早速ティファレトさんが、まずは年齢から質問してきた。いきなり突っ込んだことを訊くのね。私は少し驚いたけど、彼は平然としている。そして淡々と答える。
「18ッスよ」
まるで興味がないように。他人行儀のように。
「ほう、私と3才しか違わないな」
え、3才しか違わない? ティファレトさんって私より年下なの? そこの方が驚きだわ。ミレーヌが私より2歳下だから、ということはここにいる中で最年長は私?
「で、皆さんは何て言うんです?」
「私はティファレト・パヴェロパー。ムラクモ族の旅人だ」
「私はミレーヌ、妖精魔法の使い手よ」
二人は何事もなく挨拶をする。初対面同士なのに楽しそうだ。さっきの二の舞を踏むことは避けてほしいけど……
「で、あんたは?」
彼が振り向き問いかけてくる。
「私? フィーアよ」
「フィーア? ああ、確か4年前あの皇帝陛下から勲章をもらっていた人か」
ぶっきらぼうな返事。私の方が年上なんだけど。ミレーヌはずっと前から呼び捨てで呼んでいるから気にしてないけど、付き合いの浅い人に呼び捨てされたらへこむわね……
でも魔女とは言われなかったのは、少し嬉しいわ。
「あなたは何で私達の馬車を選んだの?」
さて、どういう理由で選んだのかしらね。二つあるから適当に選んだ、とかもあるけど。彼の返答を待つと、予想とは違う答えが返ってきた。
「何となく、あのパーティーとはそりが合わなさそうだと思ったんスよ」
適当に選んだ訳じゃないのね。
そのあとも彼は淡々と話し続けた。
「俺は彼は元々軍にいたんスよ。まあ人間関係が嫌になってすぐ辞めて今は傭兵をやってます」
人間関係が嫌になった……何か親近感を感じる理由だった。私が森で過ごすのと、同じだ。
彼が所属するギルドはライトのギルドとは別だったけど、彼はピンでこの任務に参加した。人員の調整として少人数行動の第七班に配属するのにちょうどよかったのだろう。
「軍属時代に嫌いだった教官に言われたんスよ。自分勝手な奴が戦場に立つと真っ先に死ぬってね」
「なるほど。まあ当然のことだな」
ティファレトさんが納得したように相槌を打つ。確かに、彼の言葉には説得力があった。彼は戦士の民だから、帝都に来るより前から実戦経験があるのだろう。
「俺にはなんとなくあのパーティーが真っ先に死ぬタイプの連中に見えたんス。だからマシな方を選んだってとこかな」
マシな方……もっとちゃんとした言い方はないのかしら。相対評価で選ばれたって言われても嬉しくないんだけど。
「なるほど。なら我々は君の選択を後悔のないものにするよう努めねばならんな」
ポジティブな捉え方ね……ここは注意した方が良さそうな気もするのに。
「まあ同行者に魔法使いが二人もいるなら安心ッスけどね。こんな心強いパーティーと組めるのは始めてッスよ」
――あまり過信されるのも困るけど、まあよしとしましょう。見限られていたら連携が成り立たないからね。
「それにしてもあいつら、本当にもったいない奴ッスね。皇帝陛下に認められた魔法使いを邪険に扱うなんて」
彼はまた水筒に入った水を飲む。
やっぱりちゃんとした若者は、熱心に新聞を読むものもいるみたいだ。あの日の記事は一応私も大事にとっておいているから。
――それからしばらく、具体的には三時間くらいかしら。馬車はすっかり帝都を離れ、目的地のカマーン村に近づいていた。
カマーン村は私の住む森、フォレノワールを超えた奥にある。住民はチーズの売買と狩猟で生計を立てていたそうで、裕福とは言えないものの豊かな暮らしを過ごしていたらしい。
今回は森を通らない迂回する進路を取ったらしい。時間はかかるけど、道中を魔物に襲われるリスクは薄い。無駄な消耗を避けるためと考えたら悪くない選択でしょうね。
「到着しました!」
馬車が止まったところで、兵士の一人が下りるように促している。
彼らは馬車を守るため、ここに陣取るそうだ。殲滅は全て冒険者に委託するつもりらしい。
「さあ、ここからは魔物がいるぞ。みんな、油断しないようにな」
男手の中では年長のティファレトさんが指揮を執る。
「オッケー!」
「了解ッス」
「いきましょう」
やっと仕事が始まるのね。ここからは用心していきましょう。
目的地は村長の屋敷ね。カマーン村の村長は村一番の富豪だったそうで、大きな屋敷を持っていた。
調査の目的は主に遺留品の回収。村一番の富豪が遺したものだもの。放置していたら魔物や夜盗の資金源にされてしまうでしょう。それは阻止しなくてはいけない。
でも私は感じる。そこにあるのはおそらく遺留品ではない。私達に、ひいてはアルミュールの民達に厄災をもたらす恐ろしい何かがそこにあるような気がする。確証はないが魔術師の勘がそうだと教えていた。
名前を言ったら彼は水筒に入れた水を飲み始めた。私達とあまり深く干渉する気はないらしい。
「ねえあなた。人の馬車に乗せてもらってるんだから、もう少し愛想よくしたらどうなの?」
初対面の人にも遠慮なく切り込むミレーヌ。いつも通りとはいえども、怒らせないかが心配だ。
「ああ、すみません。何か話でもした方がいいッスか?」
まあ黙ったままよりはありがたいわ。あの人達のせいでミレーヌはかなり機嫌を損ねちゃったし。一時的でもいいから気晴らしをさせてあげて。
「テオドール君、君は何歳だい?」
早速ティファレトさんが、まずは年齢から質問してきた。いきなり突っ込んだことを訊くのね。私は少し驚いたけど、彼は平然としている。そして淡々と答える。
「18ッスよ」
まるで興味がないように。他人行儀のように。
「ほう、私と3才しか違わないな」
え、3才しか違わない? ティファレトさんって私より年下なの? そこの方が驚きだわ。ミレーヌが私より2歳下だから、ということはここにいる中で最年長は私?
「で、皆さんは何て言うんです?」
「私はティファレト・パヴェロパー。ムラクモ族の旅人だ」
「私はミレーヌ、妖精魔法の使い手よ」
二人は何事もなく挨拶をする。初対面同士なのに楽しそうだ。さっきの二の舞を踏むことは避けてほしいけど……
「で、あんたは?」
彼が振り向き問いかけてくる。
「私? フィーアよ」
「フィーア? ああ、確か4年前あの皇帝陛下から勲章をもらっていた人か」
ぶっきらぼうな返事。私の方が年上なんだけど。ミレーヌはずっと前から呼び捨てで呼んでいるから気にしてないけど、付き合いの浅い人に呼び捨てされたらへこむわね……
でも魔女とは言われなかったのは、少し嬉しいわ。
「あなたは何で私達の馬車を選んだの?」
さて、どういう理由で選んだのかしらね。二つあるから適当に選んだ、とかもあるけど。彼の返答を待つと、予想とは違う答えが返ってきた。
「何となく、あのパーティーとはそりが合わなさそうだと思ったんスよ」
適当に選んだ訳じゃないのね。
そのあとも彼は淡々と話し続けた。
「俺は彼は元々軍にいたんスよ。まあ人間関係が嫌になってすぐ辞めて今は傭兵をやってます」
人間関係が嫌になった……何か親近感を感じる理由だった。私が森で過ごすのと、同じだ。
彼が所属するギルドはライトのギルドとは別だったけど、彼はピンでこの任務に参加した。人員の調整として少人数行動の第七班に配属するのにちょうどよかったのだろう。
「軍属時代に嫌いだった教官に言われたんスよ。自分勝手な奴が戦場に立つと真っ先に死ぬってね」
「なるほど。まあ当然のことだな」
ティファレトさんが納得したように相槌を打つ。確かに、彼の言葉には説得力があった。彼は戦士の民だから、帝都に来るより前から実戦経験があるのだろう。
「俺にはなんとなくあのパーティーが真っ先に死ぬタイプの連中に見えたんス。だからマシな方を選んだってとこかな」
マシな方……もっとちゃんとした言い方はないのかしら。相対評価で選ばれたって言われても嬉しくないんだけど。
「なるほど。なら我々は君の選択を後悔のないものにするよう努めねばならんな」
ポジティブな捉え方ね……ここは注意した方が良さそうな気もするのに。
「まあ同行者に魔法使いが二人もいるなら安心ッスけどね。こんな心強いパーティーと組めるのは始めてッスよ」
――あまり過信されるのも困るけど、まあよしとしましょう。見限られていたら連携が成り立たないからね。
「それにしてもあいつら、本当にもったいない奴ッスね。皇帝陛下に認められた魔法使いを邪険に扱うなんて」
彼はまた水筒に入った水を飲む。
やっぱりちゃんとした若者は、熱心に新聞を読むものもいるみたいだ。あの日の記事は一応私も大事にとっておいているから。
――それからしばらく、具体的には三時間くらいかしら。馬車はすっかり帝都を離れ、目的地のカマーン村に近づいていた。
カマーン村は私の住む森、フォレノワールを超えた奥にある。住民はチーズの売買と狩猟で生計を立てていたそうで、裕福とは言えないものの豊かな暮らしを過ごしていたらしい。
今回は森を通らない迂回する進路を取ったらしい。時間はかかるけど、道中を魔物に襲われるリスクは薄い。無駄な消耗を避けるためと考えたら悪くない選択でしょうね。
「到着しました!」
馬車が止まったところで、兵士の一人が下りるように促している。
彼らは馬車を守るため、ここに陣取るそうだ。殲滅は全て冒険者に委託するつもりらしい。
「さあ、ここからは魔物がいるぞ。みんな、油断しないようにな」
男手の中では年長のティファレトさんが指揮を執る。
「オッケー!」
「了解ッス」
「いきましょう」
やっと仕事が始まるのね。ここからは用心していきましょう。
目的地は村長の屋敷ね。カマーン村の村長は村一番の富豪だったそうで、大きな屋敷を持っていた。
調査の目的は主に遺留品の回収。村一番の富豪が遺したものだもの。放置していたら魔物や夜盗の資金源にされてしまうでしょう。それは阻止しなくてはいけない。
でも私は感じる。そこにあるのはおそらく遺留品ではない。私達に、ひいてはアルミュールの民達に厄災をもたらす恐ろしい何かがそこにあるような気がする。確証はないが魔術師の勘がそうだと教えていた。
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